ホームレスと廃墟

こないだいつものスーパーで買い物をしていると、ホームレスが万引きをしていた。彼はチーズコーナーでチーズを一つ掴むとポケットに入れ、レジを通らずにスーパーから出て行った。
私はこのホームレスを何度か近所で見かけたことがある。汚れまくったコートに破けた靴からはみ出た足には白く汚れきっていてすぐにホームレスだと気がついた。彼は時々、うちの近くのトラムの停留所に座っている。この辺は空き家が多いのでどこか適当な空き家で寝泊りしているのだろう。

ホームレスが万引きしているのを目の当たりにした私の心は酷く同様していた。お店に通報するべきか。それともチーズを私が買ってあげるべきだったか。それとも追いかけて行って5€を彼に渡そうか?とほんの一瞬の間で色々な考えが私の頭を通り過ぎて行った。結局私は何か行動に起こしたわけではないのだが。その日の買い物は思ったように進まず、何を買いにきたのかすっかり忘れてしまった。
夫が仕事から帰ってきて、スーパーでの出来事を話すとドイツ人の夫はさほど驚きもせずこう言った。「生きていくためには盗まないといけないのがドイツでは当たり前だからね。」 この価値観はとてもドイツらしい。私たちは日本で育つ時に、人のものを盗んではいけないと教え込まれる。けれどドイツでは万引きは良くないと教わるけれど、死ぬか生きるかのレベルだと許さてしまうのだ。そう考えると、今まで私が出会ってきた性格の悪いドイツ人たちがどうして平気で搾取や嫌がらせをするのかなんとなく理解できる。誰かを傷つけたりすることは、良くないことだという認識を持っていないからだ。そういう人ばかりではないのはもちろんだが、ドイツ人の性格の悪さはアジア人とは比べものにならないほどだ。こんなことを書いているとまるでうちのドイツ人夫の性格が悪いように感じてしまうが、まぁ実際出会ったころの夫はこういった自己中心的なものがよく目立った。

ベルリンに住んでいたころ、廃墟遊びが私たちの中で流行っていた時期があった。一度見つかってしまい、酷く怒られた。廃墟の退廃レベルにもよるが、窓が少し割れているくらいなら充分に中で住める。と言っても、私たちが快適に暮らしている設備が整って衛生的な部屋とは程遠いのだが。2015年頃にシリアからの難民がたくさんドイツに来た時は、つい最近まで廃墟だった建物を少しだけ整備して簡易ベッドと水場を整えて使っていた。今では難民たちの姿は見えない。ドイツに定住した人たちもいるし、国に帰った人もいる。
廃墟がある街はなんだか寂しい雰囲気が漂っている。きれいに整った街に比べると活気がないのは言うまでもない。けれど私は廃墟が好きだ。時間をかけて朽ちて行った姿はとても深い自然の力を感じさせる。2000年代後半から2010年前半にかけてベルリンの廃墟ではアーティストたちが色々なアートイベントやパーティーをしていて楽しい思い出があるのも影響していると思う。ベルリンではもはや廃墟すら見かけない。知っている道を通っても新しい建物があちこちにできているので土地勘がつかめなくなってしまった。私たちの時間は、止まることはないのだ。

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